ホッと空の物語58‐硬岩用トンネル掘削機のテイクオフ

軟弱土用シールド掘進機は泥水式、土圧式の開発により、1990年台までは日本が世界を席巻した。しかし硬岩TBMは、まだ欧米が圧倒的であった。ドーバー終了後の海外での営業活動はTBM分野では完膚無きまでの敗北であった。ただドーバーで二つの技術が交差し新しい風が生まれてきた。ロビンスのディックが、「あなた方は一度覗いた技術は消化して強力な武器とするだろう」と予言していたが、その時が来た。

1983年に安蔵川TBMを開発して社内で試験施工を実施中に、六甲山裏側への市街地展開が進んでいた神戸市より上下水トンネル用の発注を受けた。安蔵川は初号機であり思考外のトラブルが発生した。これに対応しながら同時に、商用一号機は設計変更や製作のやり直しも行った。ユーロトンネルの調査団が来た有馬温泉TBMは商用5機目であった。このように小口径ながらも事業展開をしていたが、普及における最大のネックは従来の工法(ロードヘッダーや発破)と比較して、工事開始準備期間(TBM製作納期)が長いこと、掘削コスト(\/m)が高いことであった。たとえば延長2400mの掘削をする場合、在来工法で120m/月として20カ月。TBMは240m/月としても掘削10カ月に加えて製作据付期間が必要で合計は22カ月と長くなる。コストも掘削消耗品に加えてTBMの償却費がとても重い。より長距離をより高速で掘削するか、大幅にTBM価格を下げないと費用・期間が合わないのでTBM工法は採用されない。
そこで、レンタルとして事業を構築することにした。一件の工事はだいたい3kmであるので、寿命を10kmとして設計し、製造費10+一回目整備費3+二回目整備費5とすると、工事一件当たり60%の費用で対応でき、作業環境は良いので優位性が出てくる。しかも施工者には償却費の負担がない。単価の設定は積み上げコストではなく、市場に受け入れられる値とした。技術の裏付けは安蔵川TBMを解体・調査し、改善も織り込んで確保した。もちろん契約は、メンテナンス、返還要領等を詳細に規定してトラブルを防止した。こうしてレンタル事業は始まり、またフランス出張前に手掛けていた斜坑TBMも実現するなど英仏海峡プロジェクト遂行中も国内TBM事業は継続していた。
ドーバー終了後、TBM部隊の課長になって国内硬岩TBM事業を大きく拡大せんと取り組んだ。幸い、シールド型TBMは特許で守られており、同類機が出るまでは時間が有った。そこで需要の掘り起こし策として、硬質地盤シールド工法からTBM工法への転換を提案する事にした。このための市場調査とレンタル機の全国的宣伝を行うことにした。ちょうど他事業部門から非常にアグレッシブな営業課長が移籍してきており、全国行脚をした。手掛かりは彼の高校野球人脈と英仏トンネルの講演であった。また、業界誌には毎号に広告を掲載した。こうしてKHIのTBMは知名度を上げ受注も得るようになった。レンタル事業も2mφTBMを8台、5mφの3台を中心として最盛期は15台を有していた。平均転用回数は3.5回/基と計画通りの実績をあげた。
一方、国内では高速道路網の建設がさらに活発になっていた。山岳地帯のルートでは距離の長いトンネルが多く計画された。長距離高速施工を課題として様々な工法が検討され、先進地域である欧州へ学術研修団が派遣された。 まだまだ山岳トンネルの分野ではTBM以外でも後進であった。在来工法の近代化では最先端のNATM工法が導入され、ボーリング作業の自動化、多穿孔機械の研究も盛んになった。TBMの利用も研究のテーマに含まれ、TBM研究会が作られた。主要なメーカー、建設業者が集まって、硬岩TBM技術、施工技術を高めて近代化していこうという事だった。
地質調査技術が進んできたとはいえ大断面トンネルでは詳細な予測は難しく、しばしば大出水や切羽の崩落などの難工事になる。そこで小さいトンネルを先行させて地質調査を行い必要に応じて地盤改良や水抜きを行えば本トンネルは施工しやすくなる。調査トンネルは本トンネルと並行する場合や同一断面内に置く場合(先進導坑)がある。当面の目標は先進導坑方式としてTBMを採用し、実績を蓄積していって最終的には大断面TBM工法を行う計画となった。
最初に'秋田自動車道湯田第2トンネル工事で3.5mφTBMの先進導坑計画が決まった。シールド型TBMの実績は我が社が中心であったが、オープン型TBMにも多くの長所がある。特に口径が3m以上になれば坑内は広く、地山の手当てがし易い。またシールド型は膨張性地質で前進不能となるリスクも指摘された。実際、安蔵川TBMではこのようなトラブルが有り、その上3mφ以上の実績は無かったので、安易な採用は危ぶまれた。
研究会では両機種の長所短所の比較評価が行われた。当初はオープン型を推す意見も多かったが、粘り強く日本発の新技術であるシールド型の可能性を説明した。幸い安蔵川TBMやその後の案件を通じて理解者が居り、Wirth研修団の仲間もいた。そして最終的には、適否は地質判断によるので、施工者判断との結論になった。
実際に工事が発注された後は施主、施工者、各種研究機関に懸命に説明をおこない、受注を得ることができた。この案件は機種選定での分岐点となって、各メーカーはシールド型TBMの開発を加速し、また海外でも開発が進んでいった。この工事は大きなトラブルもなく成功裏に終了できた。現場は温泉駅として名高いJR「ホッと湯田」の近くである。期間中、さまざまな形で、東北地方の多くの温泉宿に宿泊出来たのは大きな思い出である。
続いて第二東名工事が始まり、先進導坑TBM方式は認知され、大々的に導入されることになった。口径は本トンネルに合わせて5mφと決まった。複数台の使用が予定された。発注一号機の工事現場は到達地点にスペースがなく、30mカーブで反転して出発点に戻る難工事だった。社内外で問題視する声が高かったが、急カーブシールドの技術を応用して対応した。難しい案件ではあったが、先行者としての地歩を最大限に生かして、合計3台で7現場の実績を得た。国内主要各社のシールド型TBMも出そろい、世界的水準になっていった。
硬岩TBMと軟弱土シールドとの技術差異の最大の肝は、刃物と掘削動力である。コア技術の自立化とTBMの差別化を進めるため、開発当初からの懸案である、この点については、17インチ、19インチの大口径ローラーカッターの国産開発、180Kw以上の駆動装置、同クラッチ装置の国産開発を精力的に進めていった。いつの時代も戦略部品と思う。

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