ホッと空の物語73‐世界の宗教 in シンガポール

日本人は宗教についてあまり関心を持っていないが、世界ではどの宗派に属しているかは国籍やそれ以上に重要な事である。西暦はキリスト教の年代を基準としてカウントしている。令和二年はA.D.(Anno Domini =主の年)2020年となる。ユダヤ暦では5780年または81年である。イスラム暦(A.H.)では1441年あるいは42年となる。日本の神道では皇紀2680年である。海外では今なお宗教を原因とする戦争・紛争が絶えないが、一応平穏に同居している国がある。シンガポールである。

 シンガポールは人種と宗教のルツボである。人種は中国人、マレー人、インド人等で宗教はキリスト教、イスラム教、ヒンズー教、シーク教、仏教等である。
キリスト教、イスラム教はユダヤ教から生まれた兄弟宗教で一神教である。神の名はヘブライ語でヤハウエと言う。キリスト教ではGod:ゴッド、そしてイスラム教ではアッラーとなる。三宗教ともに神をかたどる偶像崇拝は禁止である。
ユダヤ教はモーゼが語った神の言葉を記した旧約聖書を経典としている。古代ユダヤのヘブライ語で書かれている。キリスト教は神の使いイエスキリスト(彼自身はユダヤ教徒)の言葉を記した新約聖書を経典とする。そしてイスラム教はどちらの聖書も受け入れていて、さらに最後の預言者ムハンマドが伝えたコーランと言う経典がある。三宗教とも神や創世記、神の使いなどの物語は、登場人物の名前は異なるがストーリはほぼ同じである。イスラム教とユダヤ教は食事制限があって教義にのっとって処理した食材のみを使う(イスラム:ハラール、ユダヤ:コ―シェル)。どちらも豚は食べない。イスラム教は酒もダメである。
 それぞれの宗教には宗派があり、宗教間も宗派間も相容れにくい関係にある。
元々ローマ帝国は多宗教であった。他宗教に攻撃的として、キリスト教は帝国内で禁止されていたがアルメニアでAD303年に、エチオピアで350年に国教となった。ローマ帝国でも380年に一つの宗教として受容された。392年には他の宗教を禁止させ唯一の宗教(国教)となった。その後ローマ帝国は395年に東西に分裂しローマを中心とする西ローマ帝国内にはカソリックとプロテスタントが布教した。コンスタンチノーブル(現イスタンブール)を中心とする東ローマ帝国内は東方正教会となっていった。三宗派の大きな違いは信仰意識と聞いた。それは原罪意識である。
カソリック、プロテスタントともに原罪意識がある。 カソリックはこれを清めるのは教会への寄付であるとし、勤労と蓄財は罪とされている。イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、中南米に多い。プロテスタントは一生懸命に働くことが神の意志に適うというスタンスで英国、ドイツに多い。東方正教会は原罪意識が希薄で勤労意欲も希薄である。ギリシア、ロシアなどの東欧諸国が多い。
 イスラム教の宗派にはスンニ派とシーア派がある。
スンニ派はスンナ(しきたり)という意味でイスラム教徒であれば誰でも指導者になれるという考えである。最高指導者をカリフと言う。イスラム教徒の85%を占めている。サウジアラビア、北アフリカ、などはスンニ派の主要国である。そのほかパキスタン、バングラディッシュ、マレーシア、インドネシアも主要なイスラム国である。
シーア派は預言者ムハンマドの血統を重視し彼の娘婿であるアリーの子孫を最高権威(イマーム)とあがめる。ただし12代で隠れているとして現在は不在となっている。イランが宗派の主要国でバーレーンもこの宗派が多い。イランのホメイニ師は12代イマームの代理人ということになっている。
コーラン(現地語ではアル クルアーン)はイスラム教徒の生活の心得や食事、衣装、利子の取り扱いなど生活に根ざした約束事をアラビア語で書き記したもので、読んでみると面白いし参考になる。コーランに書かれていないことは絶対に許されないという考えの宗派をイスラム原理主義と言う。欧米のメディアが名付けたものである。本来はテロリズムとは無関係である。同じような話はキリスト教にもあって、聖書に書かれていないことは認めない。キリスト原理主義者と言われる。彼らは例えば進化論や、宇宙がビッグバンから始まったとする理論も認めない。

 イスラム教にはラマダンというイスラム暦(A.H. ヒジュラ歴)の9月に一ヶ月間の断食の修行がある。日の出から日没まで飲食・喫煙は禁止である。そして毎日5回(シーア派は三回)、メッカに向かって礼拝するしきたりがある。イスラム教国のシールド工事現場にはPray室があり、最近では主な空港にも設けられている。祈りのお知らせはアザーンと言う街頭放送で知らされる。放送の中身はアラーアクバル(神は偉大なり)で始まるアラビルア語の朗々たる謡いで、聞いていると痺れるような甘い感じの音色である。ちなみにアラビア語は右から書くので学習は大変であるが、ヘブライ語も右から書く。ここにも似た者同士のところがある。三宗教の関係ではキリスト教が一番離れた存在と思えるがなぜかイスラム教が疎外されている。

 ヒンズー教の歴史もかなり古い。紀元前13世紀頃、アーリア人(肌は白い)がインドを征服した。インダス文明を築いた先住民族ドラヴィタ人(肌が黒い、現在は南部に多い)を支配するために(古代)ヒンズー教とカースト制を持ち込んだ。この古代のヒンズー教を現代のヒンズー教と区別するために後世の欧州人がバラモン教と名付けた。カーストとは肌の色(ヴェルナ)と職業(ジャーティ)で身分を世襲して固定した社会の枠組みである。上位からバラモン(司祭)、クシャトリア(王侯貴族)、ヴァイシャ(市民)、シュードラ(労働者)、さらに枠組外下のアチュートとなる。上位三階級は全人口の15%程度しかいない。また激しい男尊女卑の制度でもある。
バラモン教は分離派生したジャイナ教や仏教などの様々な宗教も取り込んで2000年ほど前に、現在のヒンズー教として成立したと言われている。そしてインドを中心に民族宗教として広く定着している。現在、法律的にはカーストは廃止となっているが、実生活上は強く維持されている。外国人でもその実態は肌で感じる。ただ近年のIT産業などはカーストに無い新しい職業で、だれでも努力次第で下層カースト出身でも高給の技術者になれる。インドでIT産業が盛んになった理由の一つと言われる。
 インドの宗教割合はヒンズー教80%、イスラム教が14%、キリスト教が2.3%、シーク教が1.7%、仏教が0.7%となっている。同じ英国領であったパキスタンとバングラディッシュはイスラム教が主流であったので別な国となり、宗教の異なる人々は大移動をした。しかし宗教だけの問題ではなく人種的なこともあって、完全分離とはいかず、地域によってイスラム教の比率はかなり異なる。インド南部の大都市Hyderabad(ハイデラバッド:パキスタンにも同じ名前の都市がある)ではイスラム教は40%以上となっている。ヒンズー教徒とイスラム教徒は仲が良くないので話題は注意が必要である。
ヒンズー教は多神教である。神は創造の神ブラウマー、世界維持の神ビシュヌ、破壊の神シヴァが主要三神である。ビシュヌ神はラーマ(王子)、クリシュナ、いのしし、魚など10神に化身すると言われる。ラーマ、クリシュナ神をあがめる宗派をビシュヌ派という。インドでお土産に売られている像の頭を持つガネーシャ神はシヴァ神の子供である。シヴァ神を中心にあがめる宗派をシヴァ派という。ヒンズー教の絵画、彫像はどれも妖艶で引き込まれるような雰囲気を持つ。教徒は牛をあがめていて食べない。殺生は禁止なのでベジタリアンの人が多い。
経典はビェーダと言う4篇からなる神への賛歌や呪文を記したものと、マハーバーラタ、ラーマーヤナという叙事詩である。キリスト教、イスラム教とのもっとも大きな違いは、一神教か多神教かというより輪廻の考えがあり、生まれ変わるという思想を持つことである。

 仏教はカーストに疑問を持った釈迦族の王子のゴータマ・ブッダが紀元前500年頃に興した宗教である。インドで一時は隆盛となったがその後は衰え、東南アジア、東アジアに広がって世界宗教となっていった。カーストには反対で殺生も禁止である。仏陀はヒンズー教の人にとっては裏切り者で異端者らしい。ユダヤ教徒がキリストを憎むようにヒンズー教徒は仏陀を憎む。ヒンズー教とは兄弟宗教なので同じような神(仏)が名前を変えておられる。梵天、帝釈天、四天王、毘沙門天、弁財天などである。ただ仏教には神というのはいないが釈迦が各階層の仏の最高位で神に相当する。
タイなどの東南アジアに布教していったのは上座部仏教(小乗仏教)と言う。この仏教はヒンズー教のそれに良く似た偶像・絵画が多い。中国は大乗仏教の影響が強いが、シンガポールの中国人街の仏像は少し異なり、なんともいえない大人(たいじん)風である。
日本に来ている仏像(お釈迦様)は上座部仏教とは異なる。それはガンダーラ地方に紀元前330年ごろに攻め入ったアレキサンダー大王のヘレニズムと結びついたからで、なんとなく欧風系のお顔なのはそのためである。大乗仏教と言う。
仏は神ではなく、悟りを開いた人を意味する。様々なグループがある。如来(大日如来など)、菩薩(弥勒菩薩、観音菩薩など)、明王(不動明王など)、天部(弁財天、毘沙門天など)である。一応上下関係は無いとしているが、宗派によって異なる。
仏教の経典はお経という。他の宗教の経典は神との約束や教えを説いたもの、生活の規範の細部を書いたもの、叙事詩を記したものが多いが、お経は形而上学的で難しい。その一つの般若心経は入門書としては手ごろである。コーランと同様にお経は声に出して朗じるものである。

 シーク教はイスラム教とヒンズー教の融合したもので16世紀に発生したと言われ、他宗教に寛容と聞いた。偶像崇拝は禁止で、肉の食制限は無いが酒たばこはダメである。カーストを否定し労働は勧めであるとする。男性教徒は頭にターバンを巻いていてすぐ分る。 長い髭もあり、体毛を剃ってはいけないということからきている。なぜか大男が多い

 シンガポールではユダヤ教以外の各寺院が揃っているので短時間で各寺院を参拝する事が出来る。普通は祭壇などの写真を撮るのははばかれるが、うまく集めることができた。キリスト教には祭壇があり、偶像(神を顕すものではなく、神の使いの肖像としている)があるがイスラム教には一切の肖像は無い。シーク教には祭壇らしきものはあったが偶像は無かった。ヒンズー教は毒々しいほどの彩色と祭壇、偶像がある。
日本式の神社は1942年に日本統治下でSICCゴルフ場の近くに照南神社が造営されたが敗戦で取り壊された。日本人墓地は1891年に創設された。二葉亭四迷の墓がある。多くの民間人や日本軍人の墓がある。1957年に管理のために日本人会が設立されたが1974年に墓地は使用禁止となったので墓地公園として保存されている。日本人会は存続しており予約すれば昼食の食事ができる。

 世界の主な宗教は一神教か多神教である。しかし日本はどちらにも属さない。
アジアの文化はインドに興り中国を経て日本で結ばれる、と言われる。インド世界はスレイマン山脈、ヒンズークシ山脈、カラコルム山脈によって西側世界と遮断されている。通路はせまいカイバル峠である。天然の文化遮断の長城である。西側は一神教の世界、東側は多神教(ヒンズー教系)の世界というわけである。
一神教は、人生は神との契約に基づいている。死後は最後の審判を受け地獄か天国に行く。したがって現世の我人生こそ第一である。他の神は絶対に受け入れない。
ヒンズー教系統は輪廻の考えがあり、現世の生き方は過去、未来と深く関わっていると考える。よりよい生まれ変わりを望むなら現世を正しく生きようと考える。あるいは現世は辛らくとも来世はきっと良いと信じて生きていく。しかし多神教も他の神は受け入れない。

 日本は多神教世界にあるが、様相はかなり異なる。多神教に加え多宗教でもある。国内の宗教的同質性はかなり高い。キリスト教、イスラム教の人々もいるが非常に少ない割合である。キリスト教は戦国時代に入ってきたが、従来の宗教を排斥し神社仏閣を破壊した。この暴挙は日本人の伝統や心情と合わず、禁止宗教となった。再布教が行われたのは明治以降である。国民の宗教的同質性は有難く、実に幸せな事である。
神への思いは随分異なる。「God」や「アッラー」は想像上の概念であるが、創造主であり支配者である。日本の「神さま」はそのように恐ろしいものではない。最高神は天照大神である。神話とはいえ、人間の形をしていて実在と考えられている。そして何にでも神が宿るという具合に手の届く存在なのである。神は恐れるものではなく、敬うものである。また唯一無二の神はいないので他の神(宗教)を排斥する必要もない。仏教とは習合しているしキリスト教の習慣も日常に取り入れている。輪廻の概念も根づいている。これらはうまく良い方向に影響しあって何事も大切にする思いやりの心につながり、次世代のための努力も惜しまない。もっとも特異な点は、敵も許し祀ることだろう。ヤマト政権に敗北した出雲は大社として祀られているし、徳川に滅ぼされた豊臣秀吉は豊国神社として残っている。天神様もそうである。
神道に生まれ、キリスト教で結婚し、仏教で生まれ変わりを信じつつ、この世を去る。日常生活は各宗教のイヴェントを楽しみ、なんでも食べる事が出来る。このように生きる国民は大変に幸せであるが、世界では極めてまれで外国人には容易に は理解してもらえない。
日本人は外国人に質問されると、しばしば「仏教徒 Buddhistまたは無宗教no religion」と答えるが、私は日本教 Japanese religions と答えることにしている。
それぞれの国の歴史、宗教関係は微妙で繊細な話題である。なので初めての国の場合は、予備知識を得てから訪問する事にしている。WEBなどで容易に情報が得られるけれども、書物持って航空機内で読むのも良い。司馬遼太郎は多くの紀行文を書いているので参考になる。例えば、韓の国紀行、南蛮の道、オランダ紀行、アメリカ素描、西域をゆく、長安から北京へ、などである。オランダやトルコでは友好関係に大いに役に立った。イスラム国関係の書物も最近は多くの和文の書物がある。コーランも面白いし参考になる。

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キリスト教会.png

イスラムと祭壇.png

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宗教絵画と仏像.png

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