ホッと空の物語67‐トンネル掘削機の能力/深さと長さ

シールド・硬岩TBMは誕生後も絶えず進化を続けている。これまでの歴史を振り返ると、現在は第三世代の後半と言うところかと思う。この先、周辺技術が高度化したりニーズの次元が変わると、どのような姿になるか興味が尽きない。まず基本的な疑問として、どのくらい早く掘れるか、どこまで深く掘れるか、どこまで長く掘れるか、どれほど大きく出来るか、どのような形のトンネルが掘れるか、と言うことについて、これまでの知識を集大成する形で想像してみたい。今回は掘削機の深さと施工長さについて考える。

日本国内の多くのトンネルはさほど深くなく、あまり浅くない位置に建設されている。深さは特定の地層内建設(英仏海峡トンネルのブルーチョーク層内など)を目的としない場合は、例えば地下鉄の場合は駅の入出構の利便性など運用上の要求と、もう一つは土木的観点から決められている。土木的観点とはトンネルが自然崩落をしない深さ以上にすることである。これはトンネル上面から地表までの高さである「土被り」と、トンネルを掘ることによって緩むトンネル上部の高さである「緩み高さ」の比較検討で決まる。緩み高さの計算は簡単で信頼性も高い。土被りが緩み高さより小さいと地表の沈下を起こす。一般的な地質ではトンネル径Dの1.5~2.0倍以上あれば崩落に対して安全と言われている。そして実際のトンネルは4~5Dの深さのものが多い。
また平面地図上の制約としては、トンネルは公有地の下に建設する必要がある。この結果、トンネルの幅、カーブ半径に制約が出てくる。これらを解決する手段として民有地に入らないように特殊なシールド工法(DOT,H&Vなど)が開発された。しかしそれでも大都市圏では、多数のトンネルが錯綜して、ルート選定に大きな制約が生じ、効果的な地下の活用に限界が出てきた。そこで一定の深さ以上の地下に関しては私的所有権を制限する法律ができた。

「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」である。
大深度地下の定義は、次の[1]または[2]のうちいずれか深い方の深さの地下を指す。
  [1] 地下室の建設のための利用が通常行われない深さ(地下40m以深)
  [2] 建築物の基礎の設置のための利用が通常行われない深さ(支持地盤上面から10m以深)  
平成13年4月1日(2001年)より施行されている。

このような経緯を経ているが、結果的に日本の都市部のシールドトンネルは深さ数十mの位置に建設されている。この傾向は今後も同じだろう。欧米をはじめ海外においても似たような状況である。したがって機械の耐圧性能は10気圧(1MPa)あれば十分であった。
耐圧性能の肝は掘削機の内部と外部を仕切るシール部品と排土装置である。
シール部品はテールシール、中折れシール、ベアリングシールであり現在のところどのシールも10気圧の実績はある。予備シールを装備すればさらに高圧に対応できるだろう。
排土装置は泥水式、土圧式に大別されるがどちらも10気圧の実績はある。したがって、当面の主な需要に対して必要技術は満足している。

ここで今後の需要を想像してみる。2011年に掘削を開始したアメリカのネバダ州の貯水湖であるMED湖における新しい取水トンネルは150mの地下であったし、フランス等で計画されている放射能破棄物トンネルは地下400m以上の深さである。また海峡下トンネルでも数百mの深さと想定されている。このように特別な案件かもしれないが、100m以上の深さのトンネルの需要も多数出てきている。
一般的にトンネルが深くなれば地下水のある場合、10m毎に1気圧の水圧が作用する。10気圧では100mまで、20気圧では200m深さまでのトンネル施工が可能である。したがって、新しい需要の実現は、先に述べた個別装置の耐圧性能にかかってくる。中折れシール、テールシールは単体の性能向上と共に予備シールを設けて、さらなる要求に対応できるだろう。TBMのローラーカッターの耐圧能力も既に開発が進んでいる。
最も重要なベアリングシールは、圧力以外に摺動速度のファクター(PV値)も考慮しないといけない。現時点の最高到達点はPV=50 M/分・MPaである。
これは掘削径を5mφで考えると
シールド=1.8rpm(20m/min)で2.5 MPa、
硬岩TBM=9rpm(100m/min)で0.5 MPa となる。
硬岩TBMは、新しい要求には不満足である。今後、PV=100m/min・MPa を目指すことになる。具体的な方法論は、ゴムリップ1段で全ての圧力を受ける考え(従来の日本の方式)をさらに進化させる考えと、複数段に分けて順次圧力を減圧しながら対応する方式(主として欧米系)がある。どちらも十分な実証研究が必要で、開発に時間を要する。
しかしこのような技術が確立したとしても、その案件が事業として成り立つかどうかは別問題で熟慮が必要である。最先進の技術の所有は魅力的であるが自身の事業領域をどこに置くかも大切である。

さてここで疑問があるが、被水圧は深さに比例と想定したが実際にもそうであろうか? 
地層には不透水層がありまた一定の深さになると基底岩盤層になる場合が多く、その場合には地下水圧は必ずしも深さの比例とはならない。
地下水圧が深さに比例しても、しなくても最も対応が困難な技術は排土装置であろう。排土装置は現在、泥水工法、スクリュー排土工法の二種がある
 比例する場合は、泥水輸送機器の現在の耐圧は、1.0MPaであるが、これ以上は専門メーカーと共同開発が必要となる。スクリュー方式は英仏海峡TBMでも焦点になったように今後の技術開発の重要なテーマの一つであろう。
比例しない場合は容易かと言うとそうでもない。泥水輸送の場合は、トンネルレベルの圧力は深さに比例しているので、切羽の水圧より高くなる。そこでこれまでとは原理が異なり、「低圧から高圧へのズリ注入装置」が必要となる。ただし、これより後方の輸送容量はサイホン原なので経済的となる。2004年に世界に先駆けて開発した縦型掘削機でこのコンセプトと原形を開発し実機にトライしたが、様々な事情により完成していない。今後の大きな課題として残っている
スクリュー排土の場合は15気圧程度の減圧なら可能であるが、坑内輸送と縦坑での高速・垂直搬送技術の開発が必要となる。

いずれにしても、深度200mのトンネル掘削技術を開発したところが次世代で脚光を浴びるのは間違いない。先駆者となれる開発猶予時間は長くて5年と思う。

次に施工距離についてみて見たい。

施工距離は年代を追って長くなる傾向にある。従来は地下鉄の場合でも駅間を2台のシールドで施工したが、近年は1台であるし、また2駅を連続施工する事も多い。一般的には2Kmを超えると長距離施工という場合が多い。
施工可能距離は当然寿命という形であらわれる。具体的な要素機器はベアリング、そのシール装置、そして刃物である。
ベアリングの寿命は明確な計算式があり、実績豊富な製造者であれば、計算値寿命を実際に達成する事は出来る。興味深いのは、寿命は負荷の三乗に関係していることである。つまり、計画の半分の負荷で運転すれば計算寿命は8倍となる、その逆もいえる。したがって容易に目的寿命を達成できる。
ベアリングシールは、多数のランニングデータの蓄積があり、寿命算定もかなり精度よくできる。土砂側先頭シールも、後方の潤滑状態の摩耗系数も今は既知で、シールの材料、シール摺動鋼材別に設定されている。したがって施工距離に応じて、シール材質、摺動鋼材・硬度、シール段数を設計できる。摩耗するのはシール材よりも摺動鋼材であって、しかもブリネル硬度に比例する事がわかっているので将来の超長距離対応も可能である。

他の大きな問題は刃物である。刃物が摩耗すると掘れなくなるので交換が必要となる。

刃物には土砂を削り取って切削するバイトカッタと岩盤を圧砕するローラーカッタに大別できる。
バイトカッタは硬度の高い金属土台に超硬合金(WC;タングステンカーバイト)を張り付けたものである。WCは工業用素材としては最も硬い金属である。しかし自然素材である土質粒子にはさらに硬いものが多い。これらはモース硬度として知られているが1964年に工学硬度ビッカース硬度(Hv)と関係付けられ、硬度比較、摩耗比較ができるようになった。花崗岩の主な三成分は石英、長石、雲母であるが、石英はWC(Hv=900)よりも硬くHv=1200である。したがってこれを含む土砂の掘削ではかなり摩耗する。ビットは摩耗すると切削先端半径が大きくなり、くいこみができなくなる。
添付にバイトカッタの土質別摩耗の比較を示している。これで試算すると、柔らかい土で2700m掘削、砂礫だと540m掘削で外周部のカッタは交換が必要となる。試算は5mφの標準的シールドとして、許容摩耗量は15mmとした。

ローラーカッターは内部にベアリングを装備して自転できるようになっていて、その外周にそろばん玉状のカッタリングを焼嵌している。このリングを岩盤に数十トンの荷重で押しつけ発生応力を利用して圧砕していく。カッタは回転するのでリングは岩盤上を転動するが、やはり少しずつ磨滅していく。カッタリングは摩耗して刃先幅が広くなると岩石への押しつけ面圧が下がり圧砕能力が低下する。そして最終的にはリングが押しつけ力に耐えられず破壊されてしまう。
リングは超硬合金でできているが、石英に比べるとはるかに柔らかい。したがって、石英を含有する岩石(花崗岩、安山岩、玄武岩等の火成岩やその堆積岩など)では有しない場合に比べ摩耗は1.56倍速くなる。石英がある場合はトンネルを100m掘削した程度で外周部は交換の必要が生じる。試算は5mφの標準TBMとして許容摩耗量は15mmとした。
以上の試算のように、かなり頻繁にカッタ(刃物)を交換しなくてならない。

このような状況の中で2000年代に入ってすぐに、バイトカッタの交換装置、続いてローラカッタの交換装置も開発された。バイトカッタの交換装置はその後、実用化されて比較的頻繁に採用されている。バイトカッタもローラーカッタもカッタ面盤に設けたカッタフレームという構造体に配置されている。このフレームを閉鎖空間として、人が入って内部から交換する形式としている。したがって極めて狭隘な空間での作業となり、作業時間も一個の交換に数時間を要し、掘削進捗に悪影響をあたえている。カッタフレームを大きくすると掘削土のスムーズな流れを阻害する事になり掘進性能にも悪影響を与えている。一番の問題は10mφ以上の大口径にしか採用できず、中小口径には不向きな形態である。
これは長年の掘削機の形状、構造をベースとして改善してきた結果である。今後はカッター交換を第一目標とした機械の開発が必要である。
これらに上手く資する事ができる新しいコンセプトの機械も存在する。これを認識して実用化していく必要がある。これについては次回の掘削断面の項で述べたい。

深く長く-1.png
将来のTBMの範囲.png
縦型掘削機.png
大深度掘削と輸送.png
モース硬度.png
バイトとDRC 摩耗比較.png
カッタ形式.png
カッタ面バン.png


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この記事へのコメント

2019年09月15日 19:23
すごい