ホッと空の物語66‐トンネル掘削機の能力/大きさ

シールド・硬岩TBMは誕生してから進化を続けている。これまでの歴史を振り返ると個人的には、現在は第三世代の後半と言うところかと思う。この先技術レベルが高度化しニーズの次元が変わると、どこまで行くか興味が尽きない。まず基本的な課題として、どのくらい早く掘れるか、どこまで深く掘れるか、どこまで長く掘れるか、どれほど大きく出来るか、どのような形のトンネルが掘れるか、と言うことについて、これまでの延長上で考えてみたい。今回は円形掘削機の大きさについて考える。

これまでの実績
2017年までの実績は、小は1.9mφから大は17mφ以上の掘削機が製造されている。作業員が入れる1.9mφが最小である。小口径(3.5mφ未満)、中口径(3.5m~7mφ)、大口径(7m~10m)、超大口径(10m以上)と分類される。(基準は諸説ある)
1970年代初期に開発された密閉式シールドは1979年に最初の大口径機である10mφの泥水式を見た。その後1994年に14mφを、2005年に15mφ、2011年には17mφを超える超大口径となった。先陣はすべて日本である。現在の最大径は香港で供されたドイツの17.6mφ土圧式である。
大口径機について考慮すべき五つのポイントを考えてみたい。
①  機械構造体として成り立つか。
②  製造できるか。
③  輸送出来るか。
④  掘削機としての仕様を満足できるか。
⑤  トンネルとしての需要があるか。

機械構造体として成り立つか?    
掘削機口径を変える時、寸法、能力は比例して変更することで良いなら簡単である。
しかし実際には寸法比率が変わり、機械全体の比重も変わる。装備力は大きく変えないといけない。ここに難しさがある。しかし同時に工夫の余地があり設計の面白さもある。このあたりの状況を、機長/口径比と機械の比重を評価材料としてみてみよう。
機械の軸方向の長さは、掘削部と推進部、セブメント組立部で構成されている。後者二つが機長を決める。したがってセグメント長さが決まれば全長もほぼ決まる。セグメント長さは掘削径とはあまり関係なく一定の範囲内(0.75m~2.0m)にある。したがって機長/口径の比は大口径になれば下がり、1.0またはそれ以下になる。同時に掘削機の比重も下がってくる。シールドは円筒形をしており、機長/口径比が小さくなるということは、薄い円盤状になるということである。そして、掘削機比重が1.0前後ということは、鋼材の比重7.85と比較して、かなり空隙の多い状態を示し、外観的に見える鉄の塊のような印象とは程遠く、必ずしも頑丈な構造体とは言えない。剛性を高めるために適切な部材配置を行うが装備品を配置し,メンテナンスや前方探査などのスペースや様々な機能も満たさなければならないので容易ではない。
本体に作用する外力のうち最も大きいのが推進力の反力である。大口径になるほど飛躍的に大きくなる。しかも推進力の力点と反力点は半径位置が大きく異なるので構造体断面には捩じり作用が働く。また外部荷重だけでなく自重による撓みも無視できないレベルとなる。この応力歪が最も影響する部位が、メインベアリング部であり、そのシール装置である。12m以上の掘削機では特別な追加検討と対策が必要である。実際にも時折問題を起こしている。加えて推力だけでなくその他の装備力も口径に対して級数的に大きくなり、しかも時代とともに大きくなっている。したがってこれらを許容して十分な強度の構造体を設計する事はかなり難しく、鋼材物性値が向上しない限り、設計製作できる大きさには限界があると言わざるを得ない。
掘削機の比重が小さい事は強度以外の別な問題も発生する。地中の粒子比重は2.4以上であり水との混合体としての比重は1.7~1.8程度であるので、掘削機よりかなり重い。よって掘削機は浮きあがりやすく、施工上に厄介な問題が生じることがある。

製造可能性
製造工程の主要作業は、鉄板を切断、加工する製缶作業と、機械加工、組立である。必要設備はクレーンと加工機で、特にベアリング部を機械加工する大型精密旋盤が必要である。シールド径Dに対してベアリング部口径は0.5~0.6Dであるので、20mのシールド機の場合は胴体を乗せられる回転テーブルと12mの加工径を持つ旋盤が要る。また、ほとんどのシールド機は中折れ構造となっているのでその旋削加工が必要である。この部位は直径精度、表面粗度はさほど必要ないが、加工寸法は大きい。こういった要求を満たし、ブロックで製造されたものを吊り上げるクレーンがあれば製造は可能である。今のところ、20mφのシールドは日本国内で加工可能と聞いている。

輸送上の制約
超大口径機の製造上もっとも厄介なのは陸上輸送制限である。幅、長さ、高さそして重量が制限されている。国によって制限値は異なるが日本はかなり制限値が小さい。重量制限は27トンで、2700トンあるとすると単純計算で100ピースに分割しなくてはいけない。加えて分割すると、接合面材が必要になり、さらに重量アップを起こす。
対策の一例として東京湾シールドでは工場の天井を開いて巨大海上クレーンで搬出し、大物部材の海上輸送を行った。英仏海峡TBMはフランスの国内基準に従って当初、長さ方向に輪切りにしたうえ、円形を2分割で製造したが、最終段階で現地工事期間の短縮と性能保証のため特別に一体での輸送が許可された。内陸輸送がわずかな距離であった事と国家プロジェクトであったためであるが、これは非常に助かった。

掘削機として仕様を満足できるか
掘削機の性能を示す主仕様は、掘削トルク、カッタ回転数、推進力である。
 掘削トルクについて、シールドの場合の掘削トルクT(tm)は地山の切削トルク、カッタ面板の摩擦トルク、駆動部の損失トルクなどから計算できるが、不確定要素が多いので通常は経験式で評価される。
    T=αD(a乗 ) と表わされ(D=掘削径m)、シールドではa =3としている。
αの値は装備トルク基準で機種・口径によるが0.9~2.2の範囲である。
硬岩TBMの場合は、論理的な計算式があり、修正係数も統計的に明確になっている。前記の数式で表わすとa =2となる。両機種どちらも指数関数の式となっている。
 カッタ回転数は、シールドの場合は軸受部シールの周速度(20m/秒程度)から、硬岩TBMは最外周部の周速度(120m/秒程度)から決まる。この値はローラーカッタの端面シールの許容速度である。両機種ともに、カッタの内側と外側では刃物の速度が大きく異なるので、深刻な問題が生じるが、ここでは議論しない。
カッタ動力(kW)は、カッタ回転数が決まれば計算できる。カッタ回転数は既述の通り掘削径に反比例するので、カッタ動力と掘削口径の関係は次のようになる。
シールドの場合はカッタ動力は掘削径の二乗に比例する。
硬岩TBMの場合はカッタ動力は掘削径に比例する。
両機種のカッタ動力を比較すると、TBMの平均的回転数はシールドの4倍以上であるので、小中口径ではTBMの方が大きいが、大口径になるほど、指数関数的に増加するシールドの方が大きくなってくる。
推進力Fもシールドの場合と硬岩TBMではかなり様相が異なる。
シールドの場合は掘削のための推進力、掘削断面に作用する水土圧、トンネル壁との摩擦力などがある。これらは比較的実態に合う数式が定義されている。簡易的には
T = 切羽の水圧+(20~40 (t/m2) ×掘削断面積 )として表現して良い。
これも2乗の指数式である
硬岩TBMの場合は必要推進力は大部分がカッタ押しつけ力であって、これは一定ピッチで装着するカッタ個数によってきまるので口径に比例する。(一乗である)

以上をまとめると次のようになる。
シールドの所要トルクは口径の3乗倍、動力は2乗倍である。推力は2乗倍である。
TBMの所要トルクは口径の2乗倍、動力は比例である。推力は口径の比例である。

次に装備可能な仕様について考える。
掘削動力はカッタ駆動装置としてベアリング周りの円周上に配置される。したがって口径が大きくなっても配置面積は比例でしか増加しない。推進力も同じで、配置スペースは口径に比例して増えるだけである。
したがって装備装置(カッタモーター、またはジャッキ)の能力はいずれ要求仕様を満足できなくなる。そこで、大きな装置に変更するが、口径がさらに大きくなるとまた能力不足になる。そして現状技術で最大の装置を用いて、最大数量配置しても要求を満たすことができなくなる。カッタ駆動装置では560KW電動機、推進ジャッキでは700トンが最大級である。ある口径以上ではこれらを最大限に装着しても要求仕様を満足できなくなる。さらに大口径を目指すなら、推進ジャッキ、駆動ユニットを現状と同じ容積で、出力を2倍以上にする必要がある。以上から現在の技術水準でのシールドの最大製作可能口径は17~18m思われる。
ただし、硬岩TBMの場合は掘削動力、推進力ともに径に比例であるので、少し異なる。この機種の方がより大断面化を図りやすい。しかしながら、また別の問題が起きる。それは内周部と外周部の極端な周速度の違いである。TBMの刃物であるローラーカッタには岩盤圧壊に適した速度域がある。中心部ではこれが遅すぎるし、外周部では早すぎる。そして摩耗は転動距離に比例するので、外周部は摩耗が早くあまりに頻繁な交換が必要となり進行の大きな妨げになる。対応としては内外輪を分離して独立回転などの方法もあるが、ここでは論議しない。

トンネルとしての需要
最終的には、需要の有無が肝要である。実績を振り返ってみる。
大口径トンネルの用途は主として地下鉄と道路トンネルである。地下鉄では掘削機の7mφクラスが単線断面(軽量地下鉄では5.5mクラス)、10mφクラスで複線断面となる。
道路トンネルでは内径12mで平面二車線道路、16mで上下二階建て4車線道路、19mで平面4車線道路となる。しかし19mトンネルは断面積の使用効率が極めて悪い。例えばこれを21m幅×12.5m高さの楕円形トンネルにすれば、掘削断面積は30%も減少させることができる。もちろん機械化掘削をするには円形機とは別のコンセプトの技術が必要である。したがってあまり現実的な口径ではない。
掘削機口径14m以上の用途は道路である。発注された最大口径は19mφであるが計画保留のまま実行されていない。
2018年までに世界で中古機(9現場)も含め44台の14m以上のシールド機が使用されている。そのうち日本製は19台である。日本国内工事分は13台となっている。最大径の新記録樹立の歴史と共に、これは誇りに出来る数字であろう。
いずれにしても道路トンネルは内径16mクラス(掘削径17.5mクラス)がトンネル断面の有効活用的に適した大きさと言えようと思われる。
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この記事へのコメント

ただし
2019年07月23日 21:08
なかなかのものですね

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