ホッと空の物語65‐トンネル掘削機の能力/速度

シールド・硬岩TBMは誕生してから進化を続けている。これまでの歴史を振り返ると個人的には、現在は第三世代の後半と言うところかと思う。この先技術レベルが高度化しニーズの次元が変わると、どこまで行くか興味が尽きない。その中で基本的な課題として、どのくらい早く掘れるか、どこまで深く掘れるか、どこまで長く掘れるか、どれほど大きく出来るか、どのような形のトンネルが掘れるか、と言うことについて、これまでの延長上でまとめてみたい。今回は速度について考える。

トンネル掘削機TBMの掘削速度は普通、月進量として表わされる。車や列車などとは異なり進むだけではダメで、トンネルを構築して初めて進行距離としてカウントされる。トンネルを構築する作業としては、掘削、トンネル壁構築、TBMの盛り替え、資材搬入、搬入用通路(レールなど)の敷設、動力・水等の延伸、全設備の故障修理、メンテナンス、部品・消耗品交換、掘削土砂の搬出など多数ある。

総作業時間の中で掘削前進に費やされた時間割合を稼働率η(%)という。掘削開始から次の掘削開始までの時間をサイクル時間S(H)、その距離をサイクル長さL(m)、月の総作業時間T(H)とする。月進量V(m/月)は
     V=L×(T÷S)×η               ::式(1)

稼働率には様々な計算式がある。例えば次の式である。
   AVAILABIRITY 稼働率η=(T1+T2)/(Σt-T4) ::式(2-1)

   PRODUCTIVITY 掘進率η=T1/(Σt-T4)     ::式(2-2)

T1はTBM使用時間または掘削前進時間
T2はTBM以外の原因による停止時間
T4は計画された停止時間
Σtは合計時間

定義の仕方によってAVAILABIRITY 稼働率と呼んだりPRODUCTIVITY 掘進率と呼んだりする。海外の契約ではη=80%以上とすることと要求があって、未達成にはペナルティが付く場合があるが、計算式を良く検討すると法外な要求とは限らない。実は施主側が施工者も縛るために設定する目的が強い。

式(1)で、主要ファクターはサイクル時間と実際の稼働率である。
サイクル時間の内訳は、硬岩TBMの場合は、掘削速度、盛り替え時間がメイン要素で、シールドの場合は掘進時間とセグメント組み立て時間である。純掘進速度は土砂においても、硬岩においても計算式があり、不確定な系数も長年のデータ収集分析によって修正されている。これらの計算結果から装備トルク、カッタヘッド回転数、開口率、刃物の選定・アレンジメントをしていく。その結果、高い精度で目標を達成する事が出来るようになった。図-1はある工事の掘削時間の実績値である。地質の変化による変動はみられるが掘削開始時点から終了まで安定して推移している。
問題はセグメント組み立て(エレクション)である。エレクション時間の推定は、作業を詳細に分解して所要時間を付与していけば積算できる。そしてこれを基にエレクタ―各機器の各作動速度、動力装置を設定していく。これによって試算が可能となるが、実作業での達成は容易ではない。なぜならエレクション作業は多数の作業の集合であり繰り返し作業でもある。そこでは習熟度が達成度に大きく関係してくる。
図-2は同じ工事おける1400リングまでのエレクション時間の記録である。この現場での計画値は25分であるが、これに到達するまでには相当な繰り返し回数がかかっている。結局、この工事の平均は41分で、平均値に達するにも300リングあまり(500m)かかっている。

習熟曲線について次の式が提案されている。
    RT=a×N-b                                  ::式(3)
  そして普遍的な値としてa=1.40   b=0.24 としている。

これを図―2グラフ中に表記している。
掘削初期においては、実績と理論値との乖離が見られる。これは作業クルーが複数であることに起因するので、修正が必要である。第一クルーに絞って評価したものが図-3である。式(3)に良く合っていると言える。
エレクション作業の中で時間を要するのはセグメントの最終組み込み(位置修正)と最初のセグメントピックアップ作業である。ピックアップの時間短縮を目的として真空吸着装置が採用されるが、日本国内では採用例は無い。国内用セグメントは耐震性能を考慮して単位重量が大きく吸着の安全性が保てないからである。
日本国内の工事では施工距離が短く、習熟度が上がる頃には工事終了となるので、海外との比較にはこの点の配慮が必要である。
稼働率について契約上は様々な評価方式があるが、結果的には現場が異なってもあまり大きな差異は無い。図-4は流体輸送式TBMと英仏海峡T3の稼働率表である。42.8%%と48%であるがT3は機側での交替であるので、これを割り引くと両者はほぼ同じと考えられる。一般的に45%程度と考えてよい。

英仏海峡TBMやロンドンCTRLでは世界最高水準の進行記録を達成したが、これについて計算進行量と実績進行量を比較する。
英仏海峡の場合は、1日8時間の3シフトで1月90シフト、内10シフトはメンテナンスで掘削は80シフトである。設計値は20分(内掘削は15分)で掘削と同時エレクションを行い10分で盛り替えである。30分で1.6mの進行となる。1カ月の計算値は2048mである。実績最大月進量は1142mであって、計算値の56%であった。そして約20km掘削の平均値は674mで、最大月進量の59%、計算値の33%であった。 定常的な掘削状況が得られたのはブルーチョーク層内での掘削で1.5km以降である。この平均は月進が816mであった。計算値の40%である。
このような経験から、要求仕様を満たすためには最高速度、ひいては装備能力をいかにすべきかが見えてくる。英仏海峡、CTRLの掘削機仕様は計算値の3倍程度と通常よりかなり大きくして、負荷を下げてメンテナンス時間の短縮を図っている。
以上は掘削機に焦点を絞った検討である。進行を制限する他の大きな要因に「土砂の搬送、搬出」、「セグメント等資材の搬入」がある。
掘削機から地上までの搬出、地上基地から外部への搬出が重要である。泥水式の場合は輸送ポンプや処理設備の容量が制限の要因となる。土圧式の場合は坑内輸送が制限要因である。連続コンベアなどを使うと軽減できるが、そのメンテナンス時間が制限要因となる。英仏海峡では坑内の複線高速化、チップラー、地上の掘削土輸送パイプ設備、資材供給設備などに特別な設備を使って12cm/分を達成した。CTRLは坑内連続コンベアと、基地内に大規模土捨て場を準備している。
このように考えると国内では、純掘進速度はシールドの場合は5cm/分が上限かと言える。セグメント組み立ては40分/リングが妥当かと思える。
今後これらの限界をブレークスルーするシステムの出現が望まれる。

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