ホッと空の物語47‐海峡のモグラ-難物グレーチョーク

さて数十mの掘削が進んでいくと、海岸を過ぎて、いよいよ海峡下に入る。そして地山は亀裂が多くなり、水圧がかかり始めた。ここはグレーチョークである。ブルーチョーク層は650m以上先でないと出現しない。この650mが実に長かった。半年以上掛かった。ブルーチョーク層まで立抗を深く掘れば良いのであるが、そうすると地上側のアクセストンネルが長くなりフランス側基地駅とうまく接続できない。列車は急な坂は登れないのである。
ホワイトチョークは地表から30m位までなのでトンネル部分には存在しない。このホワイトの性質は親水性があって水に溶ける。掘削に特に問題はないがフリントと言う極めて硬い岩石を含んでいる。フリントは日本名で火打石と言われ、ガラス質の非常に硬い鉱物で、鉄板でも容易に摩耗させてしまう。リール地下鉄Lot 8の泥水シールド掘進機はこの地層を掘削した。
ブルーチョークは海峡下のトンネル通過深さにあり、50m以上の深さである。この性質は硬く岩石状で水には溶けない。適度な硬さであり掘削が容易である。この中にはアンモナイトや二枚貝の化石が含まれていることがある。 時折化石の回りに黄鉄鉱の結晶が析出していて、とても綺麗である。10km地点で運良くこれを見つけた。もう手に入らない、私のドーバー従事の宝物である。
問題はグレーチョークである。特異な性質とは知られていたが、ホワイトより下に有るので詳しくは分かっていなかった。ブルーチョーク程ではないがホワイトチョークより硬く、かつ親水性で微細粉は水に溶ける。ところが溶けた溶液に圧力が加わるとゆっくりと岩石が析出する。これは他のチョークにはない性質である。掘削するカッタヘッドの内部は複雑な形状をしている。今回は出来るだけ単純な形状とし、固着を防ぐ対策をしていたが、想像以上に難物であった。水に溶け、溶液となって機械の隅々にもぐりこんでいって、再び固化する。最後はカッタチャンバー室全体がコンクリートで固めたようになって掘れなくなる。
これら三種類の性質の違いは学術的にも関心事であった模様で、英国ケンブリッジ大学の研究している学生から、知り合いの英国人を通じてコンタクトがあった。意見交換や掘削状況・データの提供をした。この結果は彼の論文として公表されている。
グレーチョークの、もうひとつの特殊な性質は、塊の表面が極めてすべり易いことである。まるでワセリンを塗ったかの様にニュルニュルである。MCSから出た後、第一ベルトコンベアに落下して後方に運ばれるのであるが、15度のコンベアの傾斜を滑って運べないのである。ベルトコンベアを改造し、ベルト速度を二倍にしたり、無理やり傾斜を緩めたり、ベルトに切れ込み溝を付けたりしたが、根本的な解決には至らなかった。
カッタチャンバー室内の固着を防ぎ、排出をスムーズにしようと掘削土案内板の一部に穴を明けたが効果は無かった。そればかりか、数日後にカッタのチェックに入ったときその穴から滑り落ちて溺れそうになった。最下部まで4m以上であるので危なかった。副所長のビグルー氏が引きあげてくれたので事なきを得た。危険な場所には必ず複数人員で入所することが鉄則であると改めて認識した。
相変わらず掘削は遅々として進まず、予想外の推力、トルクが必要になり、大変なトラブルが徐々に進行していた。
画像



画像


画像


画像

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

驚いた

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック